3分名著シリーズ

『ライフ・シフトの未来戦略』で読む“長寿社会 2.0”

今こそ「未来戦略」が必要な3つの理由

──あなたの“人生設計図”、最後に更新したのはいつですか?

昭和の頃から続く“65歳定年モデル”は、静かにその役目を終えつつあります。
そして、気づけば“人生100年時代”は未来ではなく、私たちのすぐ目の前にあります。

ここで問われるのは、
「どうやって生き延びるか」ではなく、
「どう再設計するか」という発想です。

いま、なぜこのテーマに再び注目すべきなのか?
その理由は、以下の3つの変化に凝縮されています。


1|長寿インフレが始まっている

2025年、日本の平均寿命は男性81.09歳・女性87.14歳。
次の節目は「90歳時代」。しかも、健康なまま迎える人が激増している。

これまでの“老後20年”モデルは、もはや現実からズレている。
80歳で働き、90歳で学び直すような人生が、普通の選択肢になっていく。


2|AI × ヘルスケアの進化が「生き方」を変える

バイオテック、ウェアラブル、AI診断、デジタルセラピー……
技術の進歩は「命を救う」から「人生を最適化する」フェーズへ。

健康寿命を延ばす技術とデータ活用が、
「いつまで働けるか」ではなく「どんな人生を創るか」を左右する時代に入った。


3|制度サイドが、ようやく動き始めた

  • 70歳までの就業指針
  • 金融教育の義務化
  • 学び直し支援(リカレント教育)の加速
  • 企業の「健康経営」認証拡大

これまで“個人の問題”だった人生設計が、国家レベルのアップデート対象に。
組織も個人も、先回りして「再設計力」を磨く必要が出てきている。

『LIFE SHIFT』から何が“進化”したのか?

2016年、世界に衝撃を与えた『LIFE SHIFT』。
あれから約10年。進化したのは「人生」だけではありません。
社会全体の設計図が、いま大きくアップデートされようとしています。

その最新版が、アンドリュー・スコットによる本書
『ライフシフトの未来戦略(原題:The Longevity Imperative)』です。

では、前作と比べて何が新しくなったのか?


✔ ① コンセプトの進化|Evergreen Economy

本書で新たに提示されたキーワードが「Evergreen(常緑)」。
これは、「人も社会も再生可能な存在として設計し直そう」という提案です。

人生100年時代を、健康・学び・働き・つながり・意味の5つのレンズで再定義。
“延命”ではなく、“再設計”の視点が貫かれています。


✔ ② 構成の進化|3部構成で戦略的に整理

  • 第Ⅰ部|「新しい必須課題」── 長寿化に向き合う基盤の再設計

  • 第Ⅱ部|「エバーグリーン経済」── 経済・金融・雇用のOSアップデート

  • 第Ⅲ部|「エバーグリーン社会」── 地域・つながり・意味の再構築

『LIFE SHIFT』が描いたのは“個人の選択肢”。
『The Longevity Imperative』はそこから一歩踏み込み、
社会全体の再設計と制度実装にフォーカスしています。


✔ ③ アクションの進化|“5レンズ”で具体化

レンズ意味
Healthspan(健康寿命)医療→予防へ。長く活動できる体の設計。
Skills(スキル)リスキリング&学び直しで「何歳でも現役」に。
Finance(金融)寿命90年に対応する“長生き設計”への転換。
Community(つながり)孤立を防ぐ「共生の設計」。
Meaning(意味)なぜ働くのか。なぜ学ぶのか。“生きる理由”の再定義。

個人のライフシフトだけでなく、社会のルールブックそのものを更新する。
それがこの本の最大の進化です。

 

『未来戦略』を支える5つのピラー

長寿社会の再設計に必要なのは、「問題解決」ではなく新しい設計図です。
本書では、人生100年時代に対応するための5つの戦略ピラー(柱)が提示されます。

それぞれ、海外の概念と日本の実情を照らし合わせながら見ると、
社会の“次の一手”がクリアに見えてきます。


🧱 ピラー🔑 キーワード 日本的論点
❶ 健康革命Preventive Tech / ヘルススパン健診のデジタル化、メタボからフレイル予防へ。「病気にならない社会設計」へと転換中。
❷ 経済的配当Longevity Dividend長生きを前提に、年金・NISA・保険制度を再編。「長寿インフレ時代の資産運用」が焦点に。
❸ 働き方再設計Evergreen HR70歳雇用が現実に。「年齢に応じた選べる働き方」が企業制度に求められる。
❹ 人生の意味Purpose Capital退職後の孤立を防ぐ地域共創型のコミュニティ設計へ。“セカンドライフの主語”を「自分」に戻す時代。
❺ 世代間課題Inter-generational相続税や教育制度の見直し、多世代で暮らす設計が住宅・都市政策に組み込まれ始めている。

これらのピラーは単なる政策の話ではなく、
企業のビジネスチャンスであり、
個人のライフデザインの問いでもあります。

❶ 健康革命|Preventive Tech/ヘルススパンの延伸

「長く生きる」ではなく、「長く健康に生きる」社会設計へ。

▍何が変わるのか?

  • 従来の「病気を治す」医療から、「病気にならない」予防医療へとパラダイム転換。

  • 食・運動・睡眠・メンタルヘルスをテクノロジーで可視化・管理。

  • AIによる健診DX(予測・早期発見)や、スマートウォッチ×保険の連動が進む。

▍日本では?

  • 「メタボ健診」から「フレイル予防」へ:高齢期の虚弱を未然に防ぐ取り組みが各自治体でスタート。

  • 経産省の「健康経営銘柄」、ヘルスケア産業化の波が本格化。

  • ケア領域では、介護予防×DXやロボット導入が進行中。

▍個人の問い

  • 健康は“努力”ではなく“戦略”になっている。

  • テックを活用し、「日常に仕組みとして健康を埋め込む」生き方へ。


❷ 経済的配当|Longevity Dividend(長寿からの利益)

「老後資金」ではなく、「長寿から得られる資産設計」へ。

▍何が変わるのか?

  • 長寿=支出が増える という恐怖から、長く働き・学び・分かち合える価値創造の時代へ

  • 働く時間の延長で、リスク資産への運用・副業・共助モデルが重要に。

▍日本では?

  • 積立NISA、iDeCo、長寿保険(終身収入型)の市場が急拡大。

  • 金融リテラシー教育が高校で必修化。人生全体での資金計画が常識に。

  • リバースモーゲージ・地域通貨など、多様な資産活用策が登場。

▍個人の問い

  • 「90歳まで生きる前提で、あなたの資産設計は適応していますか?」


❸ 働き方再設計|Evergreen HR

「引退する前に、役割を変える」柔軟なキャリアの再設計へ。

▍何が変わるのか?

  • 定年・年功序列・一括採用の“昭和型モデル”から脱却。

  • 人生の後半でも、「価値を発揮できる働き方」を選べる社会へ。

  • キャリアは“階段”ではなく、“連続する曲線”に。

▍日本では?

  • 70歳就業指針、選択定年制の導入が進む。

  • 副業解禁・ジョブ型雇用・週3勤務など、柔軟化が現実に。

  • 「越境学習」や「プロボノ副業」で、組織外の価値提供が評価される。

▍個人の問い

  • 今の働き方は、80歳まで続けられますか?

  • 体力・知識・好奇心を“持続可能化”できる環境設計を。


❹ 人生の意味|Purpose Capital

「何のために生きるか」が、最も重要な資産になる時代。

▍何が変わるのか?

  • キャリアの中心が「安定」から「貢献」へ。

  • 退職後こそ“第2の挑戦”が始まる、という前提へ。

  • 「所属」よりも「参加」「つながり」「物語」が意味を生む。

▍日本では?

  • NPO/地域活動/パラレルキャリアが中高年層に広がりつつある。

  • 定年後の孤立対策として、「学び直し×地域共創」の動きが行政でも進行。

  • AI時代の“意味資本”として「人の役に立てる感覚」が再評価。

▍個人の問い

  • あなたは“引退後”、何を成し遂げたいですか?

  • 「意味のある余白」を、自分で設計できる時代です。


❺ 世代間課題|Inter-generational

「高齢者の時代」ではなく、「全世代で支え合う設計」へ。

▍何が変わるのか?

  • 相続・介護・教育・住宅設計すべてが、世代を超えて再設計され始めている。

  • 「分断」ではなく「混ざる」ことで生まれる、相互理解と共創。

▍日本では?

  • コリビング、地域型大学、シニア×学生の混成拠点などが各地で誕生。

  • 相続税や扶養制度なども見直しが議論中。

  • 高齢化は孤立ではなく、新しい共創の起点になりうる。

▍個人の問い

  • 子世代・親世代・地域との「接点」をどれだけ持てていますか?

“再設計する社会”の最前線は日本にある

「長寿」はリスクじゃない。
正しく備えれば、“やり直す”ための時間資産になる。


❶ 超・長寿社会のリアルと転機

世界で最も早く高齢化に直面した国、それが日本です。
2023年の平均寿命は、男性81.09歳、女性87.14歳。
国連の推計では、総人口の約10%が80歳以上となる社会がすぐそこまで来ています。

労働人口の減少、年金制度の限界、介護人材の不足——
ネガティブな話題が先行しがちなこの現状に、Andrew Scottはこう問いかけます:

“長く生きる”ことを、悲観ではなく再設計の好機として捉えられるか?

この視点に立ったとき、見えてくるのは日本の“希望の兆し”です。


❷ “希望の兆し”が実装され始めている

領域変化の兆し
高齢者の就労就労率25%超(OECD最高水準)。定年延長・再雇用・越境副業など、就業モデルが多様化。
健康・ウェルビーイング経産省「健康経営」指標の普及。ヘルススパン(健康寿命)重視の医療×テックが進行。
シニア消費年間100兆円市場。“成熟世代向け”という新たなカテゴリで、旅行・投資・学び需要が急増。
ケアの進化介護ロボ/AI見守り/在宅支援VRなど、Age-Techの現場実装がスタート。

❸ “成長因子”としての長寿:3つのビジネスレイヤー

① Age-Tech(エイジテック)市場

  • 転倒センサー、スマート補聴器、服薬IoT、認知症VRトレーニング…

  • “高齢を前提としたテック”=次のユニコーン市場

  • 日本の現場ニーズが、世界標準のUI/UX設計を先導できる

② Evergreen UX:あらゆるUI/UXの再設計

  • 金融・自治体・Eコマース・医療に至るまで、「老い」を前提に設計されたUXはまだない

  • 見えづらさ、操作しづらさ、迷いやすさをなくす設計が、全世代に恩恵をもたらす

③ 多世代共創コミュニティ

  • 高齢者だけを囲うのではなく、“世代を横断する場”をどう設計するか

  • 地方移住+介護シェアハウス/オンライン大学/地域型プロボノなど

  • 「学び・働き・ケア」が共存する共創空間は、社会の分断を癒す新モデルへ


“制度疲労”を超えて、「社会のOS」を更新する

日本は、世界がまだ見ぬ「長寿社会のOS」をアップデートできる唯一の国かもしれない。

人口構成が変わるのは避けられない。
でも、その変化を「衰退の兆し」と見るか、「再設計の始まり」と見るかで、未来はまるで違うものになる。

『The Longevity Imperative』は、まさにその分岐点に立つ私たちに、問いかけます:

“あなたの人生は、何度でも書き換えられる”
社会もまた、同じではないか?

“長い人生”は、「もう一度、始める」ための時間

『ライフ・シフトの未来戦略』は、
長寿を“延命”から“再設計”に変える、未来の取扱説明書。

私たちは、かつてない長さの時間を与えられた。
それは、ただ老いるためではない。
何度でも「やり直す」ための時間だ。

キャリアを再構築する。
人間関係を育み直す。
学びや好奇心にもう一度火を灯す。

長く生きることは、自分という物語を何章にも分けて描けるということ。

そして今、その舞台装置としての社会もまた、書き換えを迫られている。
就労制度、医療、金融、地域…
未来のOSを、誰かが先に設計しなければならない。

それが、世界で最初に高齢社会に突入した日本の役割であり、可能性なのだ。

“未来は、再設計できる。”

本書は、そのための「青写真」であり、
今日から踏み出せる「実装マニュアル」でもある。

  • この記事を書いた人

まっきー

「マキログ」は、身体を鍛え、心を整え、思考を磨く——そんな“日々の実験”を記録するブログです。 本の要約や海外インフルエンサーの翻訳を通して、内側から人生を整えていく感覚を綴っています。

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