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目次
はじめに ――「センスが足りない」と悩むあなたへ
「自分、センスないんで…」
そう言って、会議で意見を出すのをためらう人は少なくありません。
何かを“考える”こと、“表現する”ことが仕事になっている人ほど、こうした自己否定のループに陥りがちです。
でも――そもそも、センスって何でしょうか？
美術館での経験？ おしゃれな雑誌の愛読歴？ とがった感性？
この本が伝えてくれるのは、「センスは、再現できる」という驚きのメッセージです。
アイデアの源泉は、“ひらめき”や“感性”のように見えがちですが、実はその多くが言語化・形式化された思考の型を通って生まれている。
著者たちは、電通に所属し広告・商品企画・ブランド開発など、多様なビジネス領域で培ってきた経験をもとに、「センスの正体」を紐解きます。
「感覚派も論理派も、誰でも“いい感じ”にたどり着ける方法がある」
本書は、そう断言する一冊です。
なぜ今〈インサイト〉なのか
世の中は「誰もが発信者」になった時代。
SNS、ブログ、YouTube、TikTok。あらゆる場所で「情報の洪水」が起きている中、本当に届く言葉とは何か？
答えの鍵を握るのが「インサイト」という考え方です。
インサイトとは、“人を動かす隠れたホンネ”のこと。
表に出てくる「欲しい」「知りたい」といったニーズではなく、もっと奥深くにある行動の根っこにある感情や欲求のことです。
たとえば：
「高級ブランドが欲しい」→ “自分の価値を確認したい”
「副業を始めたい」→ “評価される場が欲しい”
「家を買いたい」→ “親としての安心感が欲しい”
こうした〈言語化されていないけど、確かにそこにあるもの〉を見抜き、表現に落とし込むこと。
それこそが、今もっとも求められている「届くセンス」の正体だと著者たちは言います。
そして、うれしいことに、この“インサイトをつかむ目”は才能ではなく、訓練によって鍛えることができるのです。
本書のすべては、その実践的な方法を、再現性のある“型”として教えてくれます。
出世魚モデル――モヤモヤが“刺さる仮説”に育つ5ステップ
インサイトを見つける最初のステップは、「あれ？」という小さな違和感です。
誰かの発言。街で見かけた光景。SNSでの一言。自分の中に浮かぶ、説明できないモヤモヤ。
この“かすかな引っかかり”を見逃さず、丁寧に育てていくフレームが、本書で最も重要な「出世魚モデル」です。
◆ 出世魚モデルの5ステップ
| ステップ | 説明 |
|---|---|
| ① 違和感を掴む | 日常の中の「なんか変」「あれ？」を見逃さない |
| ② 常識を言語化する | 「世の中の当たり前」を仮置きする |
| ③ 問いを立てる | その“常識”に違和感を持つ理由を問いにする |
| ④ 仮説を立てる | 自分なりの一文で“隠れたホンネ”を言語化 |
| ⑤ 検証する | 他人にも共感されるか、数字で確かめる |
たとえば、こんな思考回路：
● 違和感 →
なぜ、最近の就活生は「やりがい」を語るのがうまいのに、すぐ辞めてしまうんだろう？
● 常識 →
「やりがいが大事」は、若者の常識になっている
● 問い →
でも、本当に“やりがい”で職場を選んでる？
● 仮説 →
実は“辞めたときに言い訳できる”ものとして、やりがいを使っているのでは？
● 検証 →
退職理由ランキングの変遷・SNSでの発言の傾向を見ると、確かに“言い訳文化”としてのやりがい発言が散見される
このように、感覚→構造→仮説→検証というプロセスを回すことで、センスは「偶然のひらめき」ではなく、「必然の積み重ね」へと進化していきます。
「いい感じの直感」を、言葉で説明できる。
「みんなが感じてたけど言えなかったこと」を、伝わる表現で言語化できる。
それが出世魚モデルの威力であり、あらゆる発信に応用可能な“万能ツール”になるのです。
逆説モデル――3行で世界をひっくり返す
出世魚モデルは、じっくり“モヤモヤ”を育てていくフレームでした。
それに対してこの章で紹介される「逆説モデル」は、もっと瞬発力に優れた“ひっくり返し”の思考法です。
◆ 逆説モデルとは？
① みんなは◯◯だと思っている
② でも、実は■■では？
③ なぜなら……
この3行だけで、インサイトの芽を即興で生み出すことができます。
たとえば：
①「釣りは自然を楽しむ趣味」
② でも、実は“感情の整理”をする時間では？
③ なぜなら、自然の中で無心になれる時間が、内省や心の棚卸しに繋がっているから。
これが“型”の強み。3行に当てはめることで、「なんか感じてたけど、言語化できてなかったこと」が一気に整う。
SNSの投稿にも、そのまま使える即効性があります。
◆ 逆説モデルの効能
普通の意見に潜む「ズレ」を見抜く力がつく
初対面の議論でも、場の空気を動かす発火点になれる
企画会議で「その視点はなかった！」と言わせられる
そして何より、発信の“最初の一行”が劇的に強くなる。
ブログ、YouTube、リール、note、スライド…どんな媒体でも、冒頭に「ひっくり返しの問い」があるだけで、読者の“スクロール指”を止められます。
実践ショートケース――日常に応用してみる
では、実際にこの「出世魚モデル」「逆説モデル」を、僕たちの日常の中に落とし込んでみましょう。
ここでは、僕の関わる3つの領域（自己啓発／釣り／不動産）を例に、ショートケースを紹介します。
▶ 自己啓発系の発信にて
● よくある前提
「行動できない人は、怠け者」
● でも、実は？
“自己否定ループ”に絡め取られて、動けなくなっているだけかも。
● だからこそ発信の切り口は
→「行動を促す」より先に、「自分をゆるす」ことから始めよう、というストーリーに。
→ 読者に“行動ハック”を与えるより、「あなたは怠け者じゃない」という安心感を先に届けた方が、深い共感が生まれます。
▶ 趣味の釣り発信にて
● よくある前提
「釣れるルアーが一番いい」
● でも、実は？
“手に取った瞬間にワクワクできる”かどうかの方が大事じゃない？
● だから
→「スペック表＋使い心地の情緒マップ」で、釣る前の“ゾクッ”を可視化する。
→ 海外向け発信では、単なる性能レビューよりも、“手にしたときの感情の揺れ”を翻訳することの方が、深く刺さる。
▶ 不動産発信（高齢者家族向け Instagram）
● よくある前提
「親の家を売るのは、仕方ない」
● でも、実は？
“親の「まだ大丈夫」に、ずっと引っかかってる”のは子ども側の感情だったりする。
● だから
→“感情の猶予”を与えるストーリーと、無料相談CTAで「背中を押さずに寄り添う」。
→ 物件や価格よりも、**「その決断をしても大丈夫だと思える根拠」**をそっと添えてあげることが、信頼を生む。
インサイト筋トレ――感覚を鍛えるワーク
最後に、読んだだけで終わらせないための「センスを育てる日々の習慣」が紹介されます。
それが「インサイト筋トレ」。ここでは代表的な3つをご紹介。
① 一日一“違和感”メモ
毎日夜に、「今日ひっかかったこと」を5行でメモ
なぜそれが引っかかったか？ 何の“常識”を感じたのか？
📓 例：
「今日、エレベーターで誰も挨拶しなかった。“無言で乗る”がデフォなんだ…」
→ 「挨拶がないのはマナー欠如じゃなく、むしろ“気遣い”だと捉えてるのかも？」
② “当たり前”ラベリング
SNS投稿や広告を見て、「この背後にある常識は？」と考える
「いいね数＝価値」「若い＝正義」「やりがい＝正解」などを可視化
→ ラベリングができるようになると、「ひっくり返し力」が格段に上がります。
③ 3行逆説チャレンジ
自分の業界、日常、コンテンツに対して、3行で逆説を作ってみる
毎日1本、自分に向けた「違和感の発火点」を作る練習
📘 例：「早起きが大事」→「でも、夜の方が心が整う人もいる」→「なぜなら、朝は社会のスピード感に飲まれやすいから」
これらを日々回していくと、「センスが良くなる」のではなく、“気づく目”と“言葉にする筋肉”がついてくるのです。
学びを活かす３つのポイント ――「センスを再現可能にする」ために
本書の終盤では、「インサイトの型」を使いこなす上で大切な“姿勢”について語られます。
型はあくまでツール。型があるからこそ、“型破り”もできる。
けれど、無自覚に使えば、かえって独りよがりな発信にもなりかねません。
だからこそ、インサイトを生かすには、3つの心構えが必要です。
◆ ① 違和感は“雑音”ではなく“種”
小さな引っかかり。
「なんかヘンだな」「言いにくいけど…」そんな違和感を、つい流してしまっていないでしょうか？
でもその一瞬の“モヤ”こそが、世の中にまだ言語化されていないニーズの兆しかもしれません。
たとえば、誰もが褒めているトレンドに「自分はちょっと冷めてる」感覚。
そこに“本音”が潜んでいる場合は多いのです。
直感的な違和感を、丁寧に育てること。
それが、アイデアの“根”になります。
◆ ② 正解より「ひっくり返す遊び心」を
インサイト思考は、分析ツールではありません。
「正しいことを言う」のではなく、「ちょっと面白い切り口を試す」ぐらいの遊び心が、むしろ良いインサイトを呼び込みます。
常識を裏返し、「逆の前提で考えてみる」。
この“逆説のジャンプ力”があるからこそ、発信はありきたりを脱し、読者の心に届くようになります。
→ 会議でスベってもいい。思考が止まるより、ずらしてみることが大事。
◆ ③ “自分視点”を越えて、共感の輪へ
インサイトが刺さるかどうかは、自分が納得したかではなく、他者が共感したかで決まります。
つまり、「問い→仮説→検証」というサイクルをちゃんと回すことが大切。
Twitterのリプ欄、Instagramの保存数、リアルでの反応──
こうした“ゆるい検証”を繰り返す中で、インサイトは磨かれ、届く言葉になっていきます。
これは、マーケティングでも、ブログでも、動画でも同じです。
🟦 8. おわりに ―― センスは、“育てられる”
「センス」と聞くと、どこか遠い世界のものに感じていた。
生まれつきの才能、クリエイター気質、アーティスティックな勘…。
でもこの本は教えてくれました。
センスのある人とは、「違和感を育てる人」だった。
センスのある発信とは、「共感を呼ぶ裏のホンネを、言葉にできたもの」だった。
そして、それは決して“感性の天才”だけが扱えるものではない。
僕たちにも“型”があれば、できる。届く。変えられる。
この本を読み終えたあと、僕は思わず「今日の違和感」をスマホにメモしました。
通勤電車で、誰もが同じアプリを見つめる光景。
会議で、「いいですね」と言いながら誰も乗らなかったアイデア。
レジで子どもにだけ向けた、店員さんの小さな笑顔。
「見逃してたけど、全部“問いの種”だったんだ」と思うと、なんだか世界が少し違って見えてきます。
✴︎ おまけ：この本をどう活かす？（読者への問いかけ）
あなたの業界・発信にある「当たり前」ってなんですか？
最近「ちょっとモヤッとした瞬間」はありましたか？
それを、3行で“逆説”にしてみるとどうなるでしょう？
さぁ、今日からあなたも。
「違和感に名前をつける人」になってみませんか？
✅ この記事を読んだらできることリスト
今日の“違和感”をメモしてみる
SNSや広告の「当たり前」をラベリングしてみる
3行逆説チャレンジを自分の発信に使ってみる
誰かの発言に対し「その前提って本当？」と問い直してみる
この本を読んで、センスをともに磨きましょう！
