現代の賢人たち

Dan Koe『Purpose & Profit』解説|「好き」と「お金」を分けてしまう理由

多くの人が抱える違和感

「好きなことは仕事にしない方がいい」
「趣味と収入は別物」

こうした言葉を、私たちはどこか当然の前提として受け取っています。
反論する余地がないというより、そもそも疑問を挟む感覚すら薄いのかもしれません。

好きなことで生きていくのは難しい。
楽しいことと稼ぐことは別の話。
現実はそんなに甘くない。

けれど、少しだけ立ち止まって考えてみると、不思議な感覚も残ります。
なぜ「好き」と「お金」は、ここまで自然に切り離されて語られるのでしょうか。

好きなことを追いかけると不安定になる。
お金を求めると純粋さを失う。

まるで両者が互いに相反するものであるかのような空気は、いつ頃から共有されてきたのでしょう。

Dan Koeの著書『Purpose & Profit』は、まさにこの違和感に正面から触れていく一冊です。
ただし、それは「好きなことで稼ごう」といった単純な成功論ではありません。

本書が投げかけてくるのは、もっと根本的な問いです。
私たちが当たり前だと思っている仕事観や価値観は、どこから形作られているのか。
そして、「好き」と「収益」は本当に別の世界に属するものなのか。

この本を読むと、答えを与えられるというより、
むしろ前提そのものが静かに揺さぶられていく感覚の方が近いかもしれません。

Purpose & Profit はどんな本か

『Purpose & Profit』は、いわゆる実用的なビジネス書とは少し性質が異なります。

市場には「こうすれば成功できる」「この手順を真似すれば収益化できる」といった
具体的で再現性を強調した本が数多く存在しますが、本書はその系譜には属していません。

むしろ冒頭から、読者に対して明確な線引きを行います。
これはハウツーの本ではない、と。

では何が書かれているのかと言えば、
仕事・お金・人生・目的意識といったテーマに対する著者の思考や視点、いわば「解釈」が中心に置かれています。

手順やノウハウよりも、前提や認知の話。
方法論よりも、世界の見方そのもの。

そのため、本書を読む感覚は実用書というよりも、
思想的なエッセイ、あるいは哲学的な問題提起に近い印象を受けるかもしれません。

文章自体は決して難解ではなく、語り口も比較的シンプルです。
ただし、語られている内容は穏やかとは言い難く、ときに強い断定や極端にも映る主張が現れます。

ここで評価が分かれる可能性も高いでしょう。

ある読者にとっては
「言語化されなかった違和感を代弁してくれる本」になり得ますし、

別の読者にとっては
「ややラディカルで現実離れした思想」に映るかもしれません。

この意味で、『Purpose & Profit』は読みやすい本でありながら、
決して万人向けとは言えない、やや選別的な性格を持った一冊とも言えそうです。

期待すべきなのは、すぐに役立つ技術やテクニックではなく、
自分が当然だと思っていた前提に対する小さな揺らぎなのかもしれません。

本書の核心テーマ

『Purpose & Profit』というタイトルが象徴している通り、
本書の中心にあるのは「目的」と「収益」の関係です。

より正確に言えば、

なぜ私たちはこの二つを、ほとんど無意識に別物として扱ってしまうのか。

この問いが全体を貫いています。

日常的な感覚として、
「やりたいこと」と「お金を稼ぐこと」はしばしば異なる領域として語られます。

好きなことは理想。
収入は現実。

この分け方はあまりにも自然で、多くの場合、疑われることすらありません。

しかし本書は、この前提そのものに静かに違和感を差し込みます。

そもそも、なぜ両者は分断されるのか。
どの段階で「好きなことは不安定である」という認知が固定されるのか。

Dan Koeは明示的な社会批評というよりも、
仕事観の背後にある構造的な思い込みへと視線を向けていきます。

例えば、

  • 学校教育を経由した進路モデル

  • 雇用を前提とした安定神話

  • 成功のテンプレート化

  • 「現実的であること」への過剰な価値付け

こうした要素は、多くの人の中で極めて早い段階から内面化されていきます。

結果として、「好き」という感情はしばしば趣味や余暇の領域へ押し込められ、
経済活動とは異なる文脈で処理されるようになる。

好きなことを優先するのは幼い。
収益性を優先するのが成熟。

このような価値の階層が、暗黙の前提として共有されている場面も少なくありません。

興味深いのは、本書が単純な成功論を語っているわけではない点です。

むしろ、

なぜ私たちは“好きと収益は両立しにくい”と感じるのか。

その認知の発生源を問い返しているようにも読めます。

本書の思想を象徴する一節として、次の言葉は印象的です。

“At the start, you create to make money. In the end, you make money to create.”
(最初はお金を稼ぐために創造し、やがて創造するためにお金を稼ぐようになる)

この一文には、「好き」と「収益」を対立させる発想そのものへの疑問がにじんでいます。

お金は目的を阻害するものなのか。
それとも、より大きな創造や活動を支えるための手段になり得るのか。

「好き=非現実」という連想はどこから来るのか。
その感覚は経験に基づくものなのか、それとも環境によって形成されたものなのか。

本書の議論は、具体的な職業論というよりも、
私たちが当然視している世界観の輪郭そのものへと踏み込んでいきます。

そして読後に残るのは、明確な答えよりも、
これまで疑問にすらならなかった前提への小さな揺らぎなのかもしれません。

印象的な主張・概念整理

Job / Career / Calling の再定義

本書の中でも、比較的理解しやすく、かつ多くの読者の認識に揺らぎを生むのが
「Job / Career / Calling」という三つの整理です。

これらは似た言葉のようでいて、実際には異なる性質のものとして語られます。

Job は、生存のための機能。
Career は、成長や蓄積のプロセス。
Calling は、より自発的で内発的な衝動。

重要なのは、この区分が優劣の話として提示されていない点です。

どれが正しい働き方かではなく、
そもそも同じ枠組みで語るべき対象なのかという問いに近い。

生活のために働く感覚と、
自己実現を求める感覚と、
どうしてもやらずにいられない活動。

これらが混在したまま「仕事」という一語に圧縮されることで、
違和感や迷いが生じる余地もあるのかもしれません。

雇用 vs 起業ではなく「Agency」

一般的に語られる「雇用か起業か」という二項対立に対し、
本書はやや異なる角度から光を当てます。

ここで中心になるのは、立場ではなく状態の話です。

起業家とは職業ではなく、
主体的に問題へ向き合う精神的ポジションに近い。

この視点に立つと、

従業員であることと主体性は必ずしも矛盾しない。
起業していることと依存的態度も両立し得る。

という、少し逆説的な構図も見えてきます。

選択肢の話というよりも、
世界との関わり方の話へと重心が移動していく印象があります。

お金に対する思想

本書が示すお金の扱い方も、しばしば読者の解釈を分ける部分です。

お金は善でも悪でもなく、
価値交換を媒介する装置として語られます。

努力すれば報われるという通念。
苦労の量と収入の比例関係。
お金を求めることへの後ろめたさ。

こうした前提に対し、本書はやや距離を取ります。

収入は、投入した労力よりも
どのような問題を解決したかによって規定される。

この考え方は直感的でありながら、
同時に多くの人の感覚と摩擦を生む部分でもあります。

Levels of Purpose(超重要)

本書の中でも特に象徴的なのが、
目的意識を段階的に捉える視点です。

Survival → Status → Creativity → Contribution
(生存  →  承認  →  創造  →  貢献)

人は最初から高尚な目的を持つのではなく、
状況や発達に応じて関心の重心が移動していく。

この整理が示唆しているのは、
目的の優劣ではなく文脈の違いのようにも読めます。

生存の不安が支配的な段階。
承認や影響力が重要になる段階。
創造そのものが動機になる段階。

自己理解のフレームとして受け取る読者もいれば、
単純化されたモデルとして距離を取る読者もいるかもしれません。

いずれにしても、本書の思想的特徴を最も象徴する概念の一つと言えそうです。

なぜこの本は刺さるのか?

『Purpose & Profit』という本に対する反応は、比較的はっきり分かれる傾向があるかもしれません。

ある読者にとっては強く心を掴む一冊となり、
別の読者にとっては距離を置きたくなる本にもなり得る。

この振れ幅自体が、本書の特徴の一部とも言えそうです。

まず、本書が支持を集めやすい理由の一つとして考えられるのは、
多くの人がうまく言語化できなかった違和感に触れている点にあります。

仕事とは何か。
お金とは何か。
好きなことと現実の関係。

これらの問いは誰にとっても身近でありながら、
日常の中で真正面から考え続ける機会は決して多くありません。

本書は、その曖昧な領域をあえて直視しようとします。

読者によっては、

「どこかで感じていた感覚が、初めて輪郭を与えられた」

という印象を受けることもあるでしょう。

一方で、拒否反応が生まれる理由もまた理解しやすい側面があります。

本書の語り口は簡潔で明瞭ですが、
その分、主張がやや強く、場合によっては極端にも映ります。

安定志向への距離感。
雇用モデルへの批評的視線。
努力観や成功観への再解釈。

こうした論点は、読者のこれまでの経験や価値観と正面から衝突することもあります。

違和感を解消する本であると同時に、
新たな違和感を生む本でもある。

この二面性は避けられないのかもしれません。

また、本書の議論は非常に抽象度が高く、
具体的な職業論や実践論を期待する読者とは相性が分かれやすい傾向もあります。

「何をすればいいのか」ではなく、
「どう捉えるか」を問い続ける構造。

このスタイル自体が、読む人を選ぶ要因にもなります。

思想的な刺激を求める読者には魅力的に映り、
即効性や実用性を重視する読者には曖昧さとして映る。

評価が割れるのは、主張の内容というよりも、
本書が扱っているレイヤーの違いによる部分も大きいのかもしれません。

結局のところ、『Purpose & Profit』は
答えを提供する本というよりも、前提を揺らす本に近い性質を持っています。

その揺らぎを歓迎するかどうかによって、
読後感は大きく変わる可能性があります。

この本が合う人・合わない人

『Purpose & Profit』は比較的明確に読者を選ぶ性質のある本と言えそうです。

内容の良し悪しというよりも、
どのような期待や問題意識を持って読むかによって評価が大きく変わるタイプの一冊です。

まず、本書が自然に受け入れられやすい読者像として考えられるのは、
すでに仕事観や生き方に対して何らかの違和感を持っている人かもしれません。

今の働き方に強い不満があるというよりも、

「このままで良いのだろうか」
「別の見方があるのではないか」

といった感覚をどこかで抱えている層。

本書は具体的な解決策よりも前提の再解釈を促すため、
こうした思考的余白を持つ読者とは比較的相性が良い傾向があります。

一方で、慎重に読んだ方がよい読者層も存在します。

例えば、

安定や雇用モデルを全面的に否定されたと感じやすい人。
あるいは、極端な自己責任論として受け取ってしまう人。

本書の議論は抽象度が高く、語り口も簡潔であるため、
解釈の仕方によっては強いメッセージだけが残ることもあります。

結果として、

「今の生き方は誤りである」
「従来の働き方は価値がない」

といった二元論的理解へ傾いてしまう可能性も否定できません。

また、実用的な手順や再現性の高いノウハウを期待して読む場合、
本書はやや肩透かしに映るかもしれません。

何をすればよいかではなく、
どう考えるかを問い続ける構造。

この性質を理解せずに読み進めると、
内容そのものよりも「曖昧な本」という印象が先行することもあり得ます。

さらに言えば、本書の思想は読者の状況によっても受け取り方が変化します。

生存や収入の不安が支配的な段階にある人と、
ある程度の余裕を持って働き方を見直せる人とでは、
同じ主張でも意味合いが異なって見える可能性があります。

結局のところ、本書は万人向けの指針というよりも、
特定の問いや関心を持つ読者に強く作用するタイプの本に近い印象を残します。

そしてその適合性は、能力や意識の高さというよりも、
現在どのような問題意識を抱えているか によって左右されるのかもしれません。

この本は何の本なのか?

『Purpose & Profit』を読み終えたあとに残る感覚は、
一般的なビジネス書の読後感とはやや異なるものかもしれません。

収益化の手順が手に入るわけでもなく、
実践的なフレームワークが提示されるわけでもない。

少なくとも、「すぐに使える知識」を期待して手に取ると、
本書の位置づけは少し掴みにくく感じられる可能性があります。

かといって、典型的な自己啓発書ともやや性質が異なります。

モチベーションを高めるというより、
前提となる世界観や認知そのものへ疑問を差し込んでくる構造。

何をするべきかではなく、
何を当然だと思い込んでいるのかを問い返す一冊。

その意味で、本書は実用書というよりも
思考の前提条件を揺らすための本 と表現した方が近いのかもしれません。

本書の思想を象徴する言葉として、次の一節は印象的です。

“Belief comes before action.”
(行動の前に、すでに信念や前提が存在している)

どのような選択を取るかよりも前に、
そもそも世界をどう認識しているかが決定的である。

この視点は、本書全体に通底しているようにも読めます。

仕事とは何か。
お金とは何か。
目的とはどのように形成されるのか。

それらを定義し直すというより、
私たちが無意識に採用している前提を可視化しようとする試み。

読者によっては、それは解放的に映るかもしれませんし、
同時に不安定さを伴う思想として受け取られることもあるでしょう。

いずれにしても、『Purpose & Profit』は
単なる成功論やキャリア論の枠には収まりにくい性質を持っています。

むしろ、

自分がどのような物語を前提として生きているのか。

この問いへと読者を静かに引き戻す本に近い印象を残します。

そして最終的に残されるのは、
明確な答えではなく、解釈の余地を含んだシンプルな疑問かもしれません。

「好きなこと」と「お金」を分けているのは社会なのか、
それとも自分自身なのか。

  • この記事を書いた人

まっきー

「マキログ」は、身体を鍛え、心を整え、思考を磨く——そんな“日々の実験”を記録するブログです。 本の要約や海外インフルエンサーの翻訳を通して、内側から人生を整えていく感覚を綴っています。

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