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AIは「進化を止めた」のか?

最近、「AIの進化が鈍化した」と感じる人は多いでしょう。
ChatGPTやClaude、Geminiが次々にアップデートされても、劇的な変化は見えにくい。
しかし、その裏側では静かに――
AIが科学を前進させる“新しいステージ”に突入しています。
YouTuber MattVidPro AI が紹介した2つの話題が、その転換点を象徴しています。
ひとつは、AIががん治療薬を発見したというニュース。
もうひとつは、OpenAI副社長が語った「継続学習を封印した理由」です。
C2S-scale:言語モデルが「生物学の言葉」を理解した日
Google DeepMind系の研究チームが開発した新しいモデル、C2S-scale。
この小型LLMは、人間の言葉だけでなく、細胞の遺伝子活動を「文章」として読むよう訓練されました。
目的は、がん治療における“冷たい腫瘍”を“熱くする”薬を見つけること。
つまり、免疫系が腫瘍を認識しやすくする薬剤をAIに探させたのです。
その結果、AIは「Silmitertib」という未知の薬候補を提示しました。
驚くべきことに、それは既存の文献に一切登場していない新発見でした。
さらに実験室レベル(in vitro)では、AIの予測が実際にヒト細胞で有効と確認。
論文の著者たちは次のように述べています。
“This result provides a blueprint for a new kind of biological discovery.”
「この結果は、生物学的発見の新しい設計図を示している」
AIが「科学の発見者」になった瞬間かもしれません。
GPT-5は“人間知能の58%”──新たなAGI定義論文

同じ週に発表された別の論文では、
AIの知能を人間の構造モデルで測るという試みが行われました。
使用されたのは心理学で最も実証された理論の一つ、
Cattell–Horn–Carroll理論(CHC理論)。
10の知能要素(記憶・推論・読解力・反応速度など)を10点ずつ配点し、
AIモデルをスコアリングした結果がこちらです。
GPT-4:27%
GPT-5:58%
この数値だけを見れば、「GPT-6や7でAGI達成も近い」と思えます。
しかし、著者たちはある一点を強調します。
「AIは継続的に学習できない(continual learning)。
その“記憶喪失”が最大の制約である。」
AIは会話の文脈内でのみ理解・保持しますが、
次の対話には一切引き継がれません。
コストと安全性の理由で、文脈の長さも制限されているのが現実です。
OpenAI副社長が語った「継続学習を止めた理由」
OpenAIの研究副社長 Jerry Twar 氏は、最近のインタビューで次のように語りました。
「理論的には、ユーザーとのやり取りからリアルタイム学習を行うことは可能。
しかし、安全性が保証されない限り、GPTでは実施していない。」
AIがユーザーとの対話から“直接学ぶ”ようになれば、
その学習内容は制御不能になりかねません。
悪意ある操作や偏ったデータを学習してしまえば、
AIは容易に“汚染”されてしまう。
そのためOpenAIは、あえて継続学習を封印しているのです。
Twar氏は続けてこう警告します。
「安全なフィードバックループが構築されるまで、
大規模モデルでのオンライン強化学習は避けるべきだ。」
Sora 2と「思考する映像生成」
OpenAIが現在リソースを集中しているのは、SoraやChatGPTブラウザなどの収益性の高い領域。
しかし、その裏でSora 2は驚異的な進化を遂げています。
複雑な物理演算や数理推論を動画生成中にこなしており、
「動画で問題に答えるAI」が現実になりつつあります。
映像生成が「思考」の可視化になっていく――
それは、AIが言葉・数式・映像を横断して理解し始めたサインです。
“学ばない知能”と“学び始める未来”

AIはいま、「学ばない知能」として慎重に制御されています。
しかし、その内部ではすでに「学びたい衝動」が芽生えているようにも見えます。
C2S-scaleが生命の言語を解読し、
Soraが映像で世界を“理解”し始めている。
次の一歩は、AIが安全に学び、記憶する方法を見つけること。
その瞬間こそ、人類とAIの“共進化”が本格的に始まるのかもしれません。
🧾 出典・参考
C2S-scale: Language Models Learn the Language of Biology(Google Research, 2025)
A Cognitive Capacity Framework for Artificial General Intelligence(2025)
MattVidPro AI「Did you miss these 2 AI stories?」(YouTube)