目次
ノウハウより「構え」が足りない
生成AIや自動化ツールの“使い方”に関する情報は、今やネット上に溢れている。毎日のように新しいTipsや裏技が投稿され、数えきれないほどのノウハウが更新されていく。
でも、ふと思うのだ。
私たちは「どう使うか」ばかりを追いかけすぎて、肝心の「どう向き合うか」を考えそびれてはいないか?
技術は便利だ。効率的だ。
けれど、その進化の先にある社会や仕事、そして人間の在り方に、本気で向き合える本は意外と少ない。
そこで今回は、「ノウハウ」ではなく「構え」をくれる本を紹介したい。
しかも、まだ日本では翻訳されていない。
けれど、すでに海外で注目を集めている3冊だ。
本記事では、それらの本の中にある知的なエッセンスや核心的メッセージを要約しながら、AI時代を生きる私たちに必要な“読み方”をお届けしたいと思う。
技術の話ではなく、人間の話をしよう。
それが、この3冊の共通点だ。
AI時代を生きるための「腹落ちポイント」3選
書籍タイトル | 1行エッセンス | 腹落ちポイント |
---|---|---|
Supremacy Parmy Olson | OpenAIとDeepMindの舞台裏で見える「理想 vs 商業」のせめぎ合い | 理想が組織構造に飲み込まれる瞬間を、“他山の石”にできるか。リーダーの哲学が、資本と評価制度にどう歪められていくか。その過程に、自分の会社やチームの未来を見る。 |
Growth: A Reckoning Daniel Susskind | 「量」ではなく「質」で測る経済成長へシフトせよ | KPI信仰から抜け出す勇気。「成長とは何か?」という問いに、ページビューや売上以外の物差しを持つ。定量化できない価値をどう扱うかは、AI時代の生き方そのものだ。 |
Superagency Reid Hoffman & Greg Beato | AIを“相棒”にして主導権を取り戻す設計図 | AIに仕事を任せる=自分を曖昧にしないこと。どこまで委ねて、どこから握るか。主導権を言語化することが、AI活用の鍵であり、“自分の人生のハンドル”を持ち続ける設計でもある。 |
各リンク先のレビュー・補足元:
【Supremacy】
【Growth】
【Superagency】
深掘りレビュー──“読んだ先にある問い”を手に入れる
3-1. 『Supremacy』――理想はなぜねじ曲がるのか
著者:Parmy Olson(元Forbes/WSJジャーナリスト)
OpenAI の設立理念は「すべての人類のために、安全な汎用人工知能を開発する」ことだった。
しかし巨大な資金調達、ChatGPTの商業化、Microsoft との関係――
それらが理想をゆっくりと飲み込んでいく様子は、驚くほどリアルだ。
一方、ライバルである DeepMind(Google傘下)は「長期的視点の研究志向」を貫こうとしているが、そこにもまた企業内政治や外部圧力が忍び寄る。
本書が明らかにするのは、「理想」が“組織”という船に乗った瞬間から始まる軋みだ。
CEOの性格・哲学(サム・アルトマン vs デミス・ハサビス)が、そのまま企業の方向性に直結するあたり、私たち一人ひとりのキャリア選択にも通じてくる。
✅ 読後の問い:
「自分が大切にしたい理想は、“どこまでなら”現実と妥協できるのか?」
📚 関連リンク:
3-2. 『Growth』――“測れない価値”をどう扱うか
著者:Daniel Susskind(元オックスフォード経済学者/AI時代の経済論者)
AI が普及する社会で、「経済成長=良いこと」と言えるのか?
Susskind は大胆に問う。GDP という指標が社会の実態をまったく映していないなら、それを拡大することに意味があるのか、と。
代わりに提唱されるのは、「時間の使い方」「心理的安全性」「余暇の充実」「知的刺激」など、“主観的で、でも重要な価値”をどう社会に組み込むかという視点。
それは単なる経済書ではない。
たとえば会社の OKR(Objectives and Key Results)を設定するときにも、「数字で測れない価値観」をどう扱うかは永遠のテーマだ。
✅ 読後の問い:
「チームや自分の“成長”を、どう定義するか? 数字で測れない成果に報酬を与えられているか?」
📚 関連リンク:
3-3. 『Superagency』――主導権を取り戻す 3 ステップ
著者:Reid Hoffman(LinkedIn創業者) & Greg Beato
AI時代に“Agency(主導権)”を保ち続けるには、3つのフェーズを経る必要があると著者たちは言う。
🧠 Step 1:Clarify(明確化)
「自分で判断すべき領域」と「AIに任せられる領域」を分ける。
これは“働き方”だけでなく、“生き方”にも関わる。
🤝 Step 2:Co-Pilot(共に操作)
ChatGPTやNotion AIのようなツールを小さく試すことで、自分の“限界”と“拡張可能性”を知る。
同時に、**ガバナンス(管理の仕方)**を学んでいく段階。
🎯 Step 3:Co-Create(共に創造)
AIと人間が共同で成果物を設計する段階。
ここでは「仕組み化」が重要になる。
本書の核心は、Hoffman の言葉に凝縮されている:
“AI is an amplifier; it makes who you are louder.”
(AIは増幅器だ。あなたの本質を、より大きく響かせるだけだ)
だからこそ、自分が何者かを知らずにAIを使うと、その空白もまた拡張される。
✅ 読後の問い:
「自分は何を“委ね”、何を“握って”いたいのか?」
📚 関連リンク:
3冊横断で見えた「共通メッセージ」
技術が加速するほど、
“何を大切にしたいか” を先に決めなければ、主導権は奪われる。
どの本にも共通していたのは、AIやテクノロジーの進化を単なる脅威や救世主として描いていなかったこと。
むしろ問われているのは、「あなたはどんな未来を望むのか?」という、極めて主観的で、しかし逃げられない問いだった。
◾️ Supremacy:理想 vs 商業の境界線は、どこに引く?
OpenAIのサム・アルトマンが「人類のため」を掲げつつ、Microsoftと手を結び巨大化する姿には、理想と現実のリアルな摩擦があった。
結局のところ、理想は誰が守るのか?
資金、組織、株主、政治──そうした現実が絡み合うとき、初志貫徹する力とは何かが問われる。
→ あなたの“譲れない価値”は、どこで妥協できなくなるのか?
◾️ Growth:数字で測れない豊かさに、価値を置けるか?
GDP、フォロワー数、売上…
量的な成長を求め続ける社会の中で、“質的な豊かさ”をどう扱うかが次のテーマになる。
たとえば──
「健康」や「余白」「他人への思いやり」は、どれも数字にはなりにくい。
でも、だからこそ 制度の設計者や、組織のリーダーは“見えないものに価値を与える力”が問われる。
→ あなたが評価したい“成果”は、本当にKPIに落とし込めるものか?
◾️ Superagency:便利さの果てに、主体性は残っているか?
AIが何でもやってくれる未来に、
「判断を委ねすぎると、自分が何者か分からなくなる」という危うさも同居する。
この本が提案するのは、AIとの共存を通じて“主体性のプロトコル”をつくること。
判断基準を言語化し、何を任せ、何を担うかを選び続ける態度。
それは単なるツール活用ではなく、生き方の設計に近い。
→ あなたは“便利さ”に流されていないか? それとも使いこなしているか?
🧭 共通の戦略的問い
理想と現実、
量と質、
効率と主体性──
この3冊はまるで、違う方向から同じ問いを投げかけているようにも感じた。
それは:
「あなたの中に、どこで線を引く覚悟があるか?」
ということ。
そしてこの“線引き”こそが、
テクノロジーに支配されず、自分の人生を選び直すための
“戦略”そのものなのだ。
読後の “行動トリガー”
未来に備えるのではなく、今日から“線を引く”ために。
この3冊は、情報よりも「視点」を与えてくれる。
だからこそ、読み終えたあとに手を動かし、自分自身の軸に落とし込むことが重要だ。
以下は、今日からできる“小さな問いと実践”の3ステップ。
小ステップ | 意図・目的 |
---|---|
① 自分/チームの“守りたい核心価値”を 3つ書き出す | 主体性の軸を可視化する。AIや外部環境に飲まれないための“コンパス”を持つ。 |
② KPI とは別に“質を測る指標”を 1つ決める 例:「感謝で共有された回数」「顧客からの自由記述」 | 成果を“量”だけで測らず、“意味のある反応”に焦点を当ててみる。 |
③ AIツールに委任するタスクと、“絶対に手放さない判断”をリスト化する | Superagencyの発想を実践へ。委任と主導の境界線を“自分の言葉”で定義する。 |
これらはどれも、3冊の本質を“自分の問い”に変える装置だ。
正解を探す必要はない。ただ、意識を向けたその瞬間から、主導権は自分に戻ってくる。
未邦訳の言葉が、未来の問いになる。
- 『Supremacy』で学ぶのは、理想が揺らぐ瞬間をどう乗り越えるか。
- 『Growth』で問われるのは、量から質へ、豊かさの物差しを変えられるか。
- 『Superagency』で身につけるのは、AIと共に設計する主体性の力。
これら3冊は、いずれも日本ではまだ翻訳も出版もされていない。
けれど、「まだ訳されていない言葉」だからこそ、
いまの私たちに必要な視点を、誰よりも早く取りに行ける。
目の前の便利なTipsや時短ノウハウも大事だけれど、
一歩引いて「その技術が、自分と社会をどう変えるのか?」を見つめる時間はもっと大切だ。
読書とは、“未来の選び方”を練習すること。
もしあなたが、AIに流されずに使いこなしたいと願うなら、
この3冊の“未邦訳の問い”に触れてみてほしい。
「もし邦訳されたら?」タイトル考察シリーズ
1. 『Supremacy』 – Parmy Olson
原題の意図:
「至高」「覇権」という意味で、OpenAIとDeepMindの覇権争いとその裏にある“理想と現実の乖離”を描く。
邦訳タイトル案:
- 『AIの覇権──理想は誰のものか?』
- 『理想を裏切る技術──OpenAIとDeepMindの舞台裏』
- 『ミッション・ドリフト──AIが“誰のものか”を決めるとき』
2. 『Growth: A Reckoning』 – Daniel Susskind
原題の意図:
「成長の再定義」あるいは「成長への清算」。これまでの“量的成長”に対する反省と“質的価値”へのシフトを訴える。
邦訳タイトル案:
- 『成長の終わり、豊かさの始まり』
- 『経済成長を問い直す──AI時代の“測れない価値”とは』
- 『Re:Growth──これからの社会をつくる“新しい指標”』
3. 『Superagency』 – Reid Hoffman & Greg Beato
原題の意図:
「超エージェンシー=人間の主体性・決定権を再強化する考え方」。AI時代に主導権を取り戻す方法論。
邦訳タイトル案:
- 『AIに使われない生き方──主体性のデザイン戦略』
- 『超・主体性──AI時代を生き抜く3ステップ』
- 『あなたの主導権を取り戻せ──AIと共に働く“人間らしさ”の条件』
未邦訳のまま埋もれてしまうには、あまりに惜しい。
そんな本を、“仮タイトル”と共に紹介するシリーズ。
次回も、お楽しみに。