現代の賢人たち

完璧なデトックスはいらない。Dan Koeが語る“30日リセット法”を現実で使うには

SNSを消したあと、残ったもの

最近、SNSを全てアンインストールした。
通知の赤い丸が、思考を支配している気がしたからだ。

少しだけ静かになったはずの時間に、
むしろ焦りが残った。
「この時間、何をすればいいんだろう?」

手持ち無沙汰の指が、無意識にホーム画面を探す。
消したはずのアプリの場所を、何度もタップしてしまう。
そこに何もないのに、脳が“快楽”を探してしまう。

——それが、ドーパミン依存の正体だった。

そんなときに見たのが、Dan Koeの動画
「A Dopamine Detox To Reset Your Life in 30 Days」

彼は言う。

“If you don’t want to live in the woods like a monk,
you need a tool to reset your life.”
(森にこもって修行僧のように生きたくないなら、
人生をリセットするための“ツール”が必要だ。)

確かにその通りだと思う。
スマホもSNSも、現代の「森」にはなりえない。
でも——完璧なリセットなんて、現実では続かない。

動画を見終えたあと、
僕は“理想と現実の間”でしばらく立ち尽くした。

心のどこかで、彼の言葉が刺さりながら、
同時に「いや、そんなに簡単にできないよ」とも思った。

だからこの記事では、
彼の提唱する理想を整理しつつ、
「できない人間なりの現実的デトックス」を考えてみたい。

Dan Koeの主張——「人生を工場出荷状態に戻せ」

Dan Koeが語るドーパミン・デトックスは、
「脳のリセットプログラム」といっていい。

SNS、ニュース、ポルノ、アルコール、ジャンクフード。

現代社会に溢れる“安い快楽”をすべて断ち、
代わりに、運動・散歩・創作・内省といった「原始的な行為」を取り戻す。

期間は30日。
言ってしまえば、“現代版の修行”だ。

“Overstimulation destroys the potential for flow.
Everything that is more boring than your phone is automatically labeled as boring by your brain.”
(過剰な刺激はフロー状態を壊す。
スマホより退屈なものは、脳が自動的に「つまらない」と判断してしまう。)

つまり僕たちは、スマホによって「退屈を感じる能力」を失っている。

少しでも刺激が弱いと、集中できず、すぐ飽きる。
常に何かを見ていないと、落ち着かない。

だからこそ彼は言う。
30日間だけ、ドーパミンの供給を止めろ。
刺激の洪水を抜け出し、脳の“感度”を工場出荷状態に戻せ。

最初の数日は地獄だという。
退屈、焦燥、孤独、そして強烈な「何かを求める衝動」。

でも、それを越えた先で——
本来の自分が何に興奮し、何に感動するのかが見えてくる。

Dan Koeにとってドーパミン・デトックスは、
意志の修行ではなく、知覚の再調整だ。

彼は動画の中で何度も「これは禁欲ではない」と言い切る。
それは、“本来の欲求を取り戻すためのリハビリ”だと。

理想の7ステップ vs. 現実の「1ステップ」

Dan Koeは、人生を再起動させるための7つのリセット法を提案している。

筋トレ、ウォーキング、除去食、内省……。
いずれも“自分を整える王道”で、理論的には完璧だ。

でも、現実ではこれを一気に実行するのはほぼ不可能だ。
それができる人は、すでに人生の舵を握っている人たちだ。

多くの僕らは、その手前で立ち止まっている。
わかっていても、手が動かない。
その「できなさ」こそが、現代人のリアルだと思う。

そこで、ここではDan Koeの7ステップを“現実の折衷案”に置き換えてみる。

理想を手放さず、でも“続けられる強度”にまで落とし込む。
それが、できない人間のためのモンクモードだ。

Dan Koeの提唱現実的な折衷案
① Pain & Gain Story:変わらなかった未来と、変われた未来の物語を描け「なんでSNSを開いてしまうのか」を1行書く。それが、あなたの痛みの物語の始まり。
② Monk Mode(断ち期間):30日間すべての安い快楽を絶つ1日だけSNSを見ない。完璧より“空白を作る習慣”を目指す。
③ 10,000歩ウォーク:食後20分×3回歩く通勤や昼休みに“スマホを持たずに歩く”。まずは1日10分でも効果あり。
④ 筋トレ・抵抗運動:体を鍛えて心を整えるストレッチでもOK。「体を動かした」という自己効力感が鍵。
⑤ 除去食(Elimination Diet):30日間の食事リセットコンビニ飯を“1日だけ”避ける。体調の変化を感じたら続ければいい。
⑥ Build a Project:何かを作れ。学ぶな、作れ。“今日やりたいこと”を10分で考える。それを1週間続けたら、立派なプロジェクト。
⑦ Reflection:夜の10分で「3勝2学1意図」を書く「今日何が嬉しかったか」だけでいい。それが自分を取り戻す時間になる。

理想の7ステップを、現実の1ステップに変換する
それだけでいい。

人間の脳は、完璧よりも“継続”に反応する。
小さなデトックスでも、神経回路は確実に変わり始める。

だから、もし今日なにかひとつだけやるなら——
スマホを置いて、1分だけ静かに呼吸すること。

それすらできたら、もう最初のステップは踏み出している。

完璧主義が壊す「再起動」の本質

動画を見た直後、本を読み終えた直後——。
やる気はいつも、最高潮に達する。

「よし、今日からやるぞ」と思う。
SNSを消して、朝5時に起きて、筋トレして、英語の勉強をして……。

けれど数日後、気づくと元のリズムに戻っている。
まるでゴムを引っ張ったあと、元の位置に戻るように。
あれほど決意したのに、現実は静かに“揺り戻す”。

それは意志が弱いからではない。
脳が安定を求めているからだ。

変化を“危険”と判断して、もとの習慣に戻ろうとする。
だから、極端なデトックスほど反動が大きい。

Dan Koeのストイックさは、多くの人に火をつける。
けれど、その炎で自分を焦がしてしまう人も多い。

“You’re bored because you don’t have a quest.
Stop playing someone else’s game and sit with your boredom until your own becomes clear.”
(退屈なのは、あなたが自分の“使命”を持っていないからだ。
他人のゲームをやめて、退屈と共に座れ。
そうすれば、自分の探求が見えてくる。)

この言葉は鋭い。
でも、同時に少し残酷でもある。

多くの人にとって、“退屈と座る”こと自体が苦行だ。
通知のない時間に、自分の中の空虚と向き合う。
その沈黙に耐えきれず、またスマホを開いてしまう。

だから僕は、“緩やかなデトックス”を推したい。

退屈を「我慢」するのではなく、
その中で“自分のリズム”を探す時間に変えること。

  • なんとなく散歩する

  • 手帳を開いて1行だけ書く

  • コーヒーをゆっくり淹れてみる

そんな些細な行為が、少しずつ「自分の時間の速度」を取り戻していく。
それで十分、脳はリセットされる。

完璧にやる必要はない。
完璧でいようとすること自体が、依存の延長なのかもしれない。

デトックスは戦いではなく、回復

SNSを消すのは、思っているより勇気がいる。
それは今の時代、人との繋がりを手放す行為でもあるからだ。

「置いていかれるかもしれない」
「仕事に支障が出るかもしれない」
「誰にも見られなくなったら、自分は消えてしまうのでは」

そう感じる人は多いと思う。
実際、SNSは“依存”と同時に“拠りどころ”でもある。
そこには、日々を支えてくれる他者の声や、
小さな承認や共感がある。
それを失うことが、怖くない人なんていない。

だから僕は、
「SNSをやめろ」ではなく、
“SNSと少し距離を置いてみる”ことからでいいと思う。

スマホを消す代わりに、

  • アプリをホーム画面の奥に移動する

  • 通知を切る

  • 1日1時間だけ“見る時間”を決める
    そんな小さな距離感の調整でも、心の呼吸は変わる。


SNSを消して数日。
最初のうちは「置いていかれる」ような不安があった。
でも、少しずつ、時間の密度が戻ってくる。

食事の味が濃くなり、音楽が心に沁みる。
不思議と、五感がリブートされていく。

Dan Koeが言うように、

“The detox clears the noise.
The project gives you purpose.
Reflection is how you track progress.”
(デトックスは雑音を消し、
プロジェクトが目的を与え、
内省がその進捗を記録する。)

その言葉を、僕は少し違う角度で受け取った。
デトックスとは、「戦う」ことじゃない。
“整える”ことなのだ。

僕たちは戦いすぎている。
情報と、他人と、昨日の自分と。

だからせめて、スマホを置いた時間くらい、
「戦わない」自分でいてもいい。

SNSを完全にやめなくてもいい。
心の健康を守るために、そこに“線を引く”こと。
それが、現代人にとってのデトックスなのだと思う。

完璧なデトックスより、「戻る力」を

人は、いつでも戻れる。

1日だけスマホを消してもいい。
翌日にまたインストールしたっていい。

大事なのは、「戻る場所を知っていること」。
どれだけ流されても、自分のペースへ戻れる——
それが、いちばん現実的な“自由”だと思う。

Dan Koeが語るような完璧なモンクモードには、憧れがある。

けれど、僕らの生きるこの時代には、
切り離せない現実がある。

SNSも、仕事も、人間関係も、
全部が入り混じった中で生きている。

だからこそ、大切なのは“離れる力”よりも“戻る力”だ。

心が疲れたら、スマホを置いて、深呼吸して、
静かな時間に身を委ねてみる。
それだけで、脳のざわめきが少し静まる。

ドーパミン・デトックスとは、
“何もない時間”を怖がらない練習。

誰の声も届かない静けさの中で、
もう一度、自分の輪郭を思い出すための時間だ。

そしてその静寂の向こうで、
また新しい「やりたい」が小さく芽吹いてくる。

その小さな芽を見つけられたなら、
もう、デトックスは成功している。

  • この記事を書いた人

まっきー

「マキログ」は、身体を鍛え、心を整え、思考を磨く——そんな“日々の実験”を記録するブログです。 本の要約や海外インフルエンサーの翻訳を通して、内側から人生を整えていく感覚を綴っています。

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