目次
実装編:「買わない理由」を構造的に消すデザイン
前編では、ホルモジが示した「価値方程式(Value Equation)」と
「Grand Slam Offer(グランドスラム・オファー)」の設計プロセスを整理した。
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ホルモジの価値方程式:夢×確率/時間×負担で“売らずに売れる”を設計する【前編】
価値=(夢の結果 × 達成の確率)÷(時間の遅れ × 努力と犠牲)
この公式をもとに、“売らずに売れる”状態を設計するには、
顧客の「夢」「不安」「負担」をすべて数式の中で整える必要があった。
では、ここからが本番だ。
理論を知るだけでは、まだ「買われない」。
“買わない理由”を消す構造設計に踏み込まなければならない。
ホルモジはこの実践パートを、二つの戦略に分けて語っている。
ひとつは「値引きではなく、ボーナスで障害を外す」。
もうひとつは「保証を積み重ね、リスクを逆転させる」。
ここからは、前者――ボーナス設計の技法を掘り下げていこう。
実装:値引きNG、ボーナスで“障害”を外す

「売れないから値引きする」という行為ほど、
ブランドの信頼を削るものはない。
ホルモジは明確に言い切る。
“Discounts kill desire. Bonuses build belief.”
(値引きは欲求を殺し、ボーナスは信頼を育てる。)
値引きは一時的に購入意欲を上げるが、
それは“価格を下げたから”ではなく、“行動を起こす理由ができたから”にすぎない。
つまり、顧客の「不安」や「面倒」を取り除く構造を設計できれば、
値引きなしでも人は動く。
ボーナスの本質は「障害を外す」こと
ホルモジは、良いボーナスとは“おまけ”ではなく、
顧客が行動できない原因(障害)を取り除く仕組みだと定義している。
「人は買わないのではなく、“買えない理由”をまだ抱えているだけ。」
だから、ボーナスは「特典」ではなく「解決策」。
目的は“喜ばせる”ではなく、“動かせる”ことにある。
代表的なボーナス例(+設計意図)
| ボーナス | 狙い・効果 |
|---|---|
| テンプレート/チェックリスト | 行動のハードルを下げる。何をすればいいかが即わかる。 |
| 実装代行 or 初期設定サポート | 「自分にできるかな?」という不安を解消する。 |
| 優先サポート/専用チャット | 伴走者の存在で達成確率を高める。 |
| 期限短縮ツール(時短ノウハウ) | 「時間がない」を消す。短期成果で信頼を積み上げる。 |
| 成功事例まとめ/導入ガイド | 成功イメージを補強し、安心感を増やす。 |
これらのボーナスは、「付け足す」よりも「削る」に近い。
つまり、顧客の行動を阻む要素を一つずつ取り除いていく作業だ。
“魅力的なボーナス”の設計ポイント
メインオファーを補完すること。
→ 本体と関係のない特典は混乱を招く。時間・手間を減らす方向に働くこと。
→ ボーナスは“手間を増やす贈り物”になってはいけない。「買わなかった場合の損失」を想像させること。
→ 「このボーナスを逃すのはもったいない」と思わせる構造をつくる。
ホルモジはこの状態を「摩擦のない購入体験(Frictionless Offer)」と呼ぶ。
ボーナスは、摩擦を取り除く“潤滑油”なのだ。
ボーナスは「熱量」を可視化するツールでもある
もうひとつ重要なのは、ボーナスが売り手の本気度を示す指標になることだ。
ただ売るだけでなく、
「ここまで準備している」「ここまで支援する」という姿勢を見せることで、
顧客は“この人から買いたい”と感じるようになる。
結果、ボーナスは「信頼」の証明でもある。
値引きは“逃げ”だが、ボーナスは“覚悟”である。
保証の積層で“買わない理由”を消す

どんなに魅力的な商品でも、
人が最後の一歩を踏み出せない理由はひとつ。
それは「失敗したらどうしよう」という恐れだ。
ホルモジはここにこそ、最強の“オファー設計の余白”があると説く。
“People don’t fear spending money — they fear wasting it.”
(人が恐れているのは、お金を使うことではなく、無駄にすることだ。)
保証とは、“不安の設計”である
保証(Guarantee)は、売り手にとってはリスクのように見える。
だがホルモジの視点では、それは「信頼の設計」でもある。
返金保証や再実施保証を付けることによって、
「もし失敗しても大丈夫」という安心感を与え、
購買の摩擦を限界まで下げる。
つまり、保証とは“リスクの再配分”だ。
顧客から売り手へ、不安を引き取る行為。
この構造を丁寧に設計することで、人は「安心して挑戦できる」ようになる。
ホルモジが定義する4つの保証タイプ
| タイプ | 内容 | 目的 |
|---|---|---|
| 1. 無条件保証(Unconditional) | 「理由を問わず返金します」 | 信頼関係の土台を築く。最も強力。 |
| 2. 成果保証(Performance) | 「〇〇を達成できなければ全額返金」 | 結果へのコミットを明確に示す。 |
| 3. 条件付き保証(Conditional) | 「指定ステップを実行した場合のみ返金可」 | 乱用防止。双方の誠実さを保つ。 |
| 4. 延長保証(Extended) | 「〇日以内なら再実施 or 延長サポート」 | 体験の継続性と安心を提供。 |
ホルモジは、この4つを“単発ではなく積み重ねて使う”ことを推奨している。
これを彼は “Stacked Guarantees(保証の積層)” と呼ぶ。
保証の積層例
たとえば以下のように構築することで、
リスクゼロを“感情的にも論理的にも”演出できる。
① 無条件+② 成果保証+③ 条件付き保証
→ 「成果が出なければ全額返金。実行した履歴を共有していただければ、追加サポート or 再実施も可能です。」
このように「返金 or 再実施」という選択肢を並べることで、
顧客の心理的抵抗はほぼ消える。
しかも、顧客の本気度が高まる副作用まである。
注意点:保証設計は“ルールづくり”でもある
ただし、ホルモジは保証を乱用することの危険性にも触れている。
返金制度は“誠実さの証”であると同時に、運用を誤ると逆効果になる。
✅ 注意すべき3つのポイント
コンプライアンス(表示義務)
保証内容・期間・条件を明文化し、誤解を生まないこと。返金条件の透明化
返金の流れを簡潔に説明する。「実行証跡を提示」「所定フォームから申請」など。乱用防止策の設定
同一顧客の複数申請制限/過去返金者への再販売制限など、システム的な防御を組み込む。
ホルモジ自身もこう語る。
“A guarantee is not an invitation for abuse, it’s a declaration of confidence.”
(保証は悪用の招待ではなく、自信の宣言である。)
保証が“マーケティング”に変わる瞬間
興味深いのは、ホルモジが保証を単なるリスクヘッジではなく、
「マーケティングの一部」として捉えている点だ。
たとえば:
「90日で成果が出なければ全額返金」
「導入後3か月以内に変化を感じなければ延長サポート」
こうした言葉は、コピーとしても強力だ。
顧客の信頼を得ながら、同時に“行動の期限”を与える効果がある。
つまり、保証とは単なる防御策ではなく、
“信頼と行動を同時に動かす心理デザイン”なのだ。
保証設計は、“覚悟の表明”でもある
ホルモジは、オファーの強さとは「売り手の覚悟の深さ」で決まると説く。
保証を積み重ねるということは、
自分の提供価値にどれだけ自信があるかを世界に示すことでもある。
値引きは弱さ、保証は覚悟。
顧客は、価格よりも“姿勢”を見ている。
保証を設計することは、
「自分が何を信じているか」を可視化する行為なのだ。
次章では、いよいよこのホルモジ理論を
“日本ローカル”の現場へ落とし込む。
業界や職種を超えて、どんなビジネスでも応用できる
「オファー設計のケーススタディ」を紹介していこう。
ケーススタディ|営業・マーケティング・企画で“売らずに売れる”を再現する

ホルモジの理論は、
一見するとアメリカ的でスケールの大きな話に聞こえるかもしれない。
しかし、本質は驚くほどシンプルで、
「相手の不安を先に解消する」という一点に尽きる。
この思想は、実は日本の営業・マーケティング・企画の現場でも、
そのまま通用する。
むしろ“誠実さ”や“信頼構築”を重んじる日本文化とは、
相性が良いとすら言える。
① 営業のケース:値引きより“伴走”で信頼を設計する
多くの営業がやりがちな失敗は、
「価格」で勝負しようとすることだ。
だがホルモジ流の視点で言えば、
価格を下げるより、“顧客の不安を取り除く”方が成約率を上げる。
たとえば、次のように変えるだけで結果は大きく変わる。
| Before | After |
|---|---|
| 「今なら10%OFFです!」 | 「初回導入時は私が直接立ち会い、設定から運用まで一緒に進めます。」 |
値引きではなく“伴走ボーナス”を付ける。
これにより、顧客の「できるかな?」という不安を打ち消し、
“安心して決められる”状態を作る。
保証も同様だ。
「導入後1か月以内なら再提案・再設計を無償対応します」と明言すれば、
心理的リスクはほぼゼロになる。
値引きは「損を減らす」提案。
ボーナスと保証は「安心を増やす」提案だ。
② マーケティングのケース:“保証”をコピーとして使う
ホルモジが特に強調するのは、
「保証はリスクヘッジではなく、マーケティングコピーである」という点。
たとえば、広告文やランディングページの一行を
こう書き換えるだけで反応率が跳ね上がる。
| Before | After |
|---|---|
| 「結果が出るサービスです。」 | 「90日で成果を実感できなければ、全額返金 or 無料延長サポート。」 |
この一文があるだけで、
“怪しさ”や“押し売り感”が消える。
顧客は「この人は逃げない」と感じ、安心してクリックする。
実際、ホルモジの顧客企業でも、
保証コピーを加えただけでCVR(成約率)が2倍になった事例があるという。
つまり、保証は信頼を可視化するメッセージ設計でもある。
③ 企画のケース:“時間”と“負担”を消すプレゼンを設計する
社内企画や提案の場面でも、
ホルモジの「価値方程式」は驚くほど使える。
価値 = (夢 × 確率)/(時間 × 負担)
この式を使って企画を組み立てると、
上司やクライアントの「YES」を引き出しやすくなる。
たとえば、企画書を提出する前にこう自問する。
Dream Outcome(夢の結果):この企画が成功したら、相手にどんな未来を見せられるか?
Perceived Likelihood(確率):成功を確信できる根拠は何か?(データ・実績・比較)
Time Delay(時間):結果が出るまでの期間をどう短縮できるか?
Effort & Sacrifice(負担):相手の作業負荷をどう減らせるか?
この4つを整えるだけで、
同じ企画でも「響き方」がまるで変わる。
提案とは「説得」ではなく、「設計」だ。
相手が“自然に納得してしまう”構造を作ること。
それこそがホルモジ流の“売らずに売れる”アプローチである。
“信頼のデザイン”としてのホルモジ理論
日本では「押し売り」よりも「信頼」が価値を生む。
だからこそ、ホルモジの理論はより深く機能する。
値引きではなく、ボーナスで不安を外す。
条件ではなく、保証で信頼を引き受ける。
説得ではなく、設計で納得を生む。
この3つを意識するだけで、
営業もマーケも企画も、驚くほど静かに成果が変わっていく。
「人は“売られる”のは嫌うが、“買う理由”を求めている。」
— Alex Hormozi
あなたの提案が、“買う理由”で満たされているか。
それを見直すための一冊が、
この 『$100M Offers』 なのかもしれない。
“価値→価格→需要”の正順で設計する

ホルモジの思想を一言でまとめるなら、
それは「価値が先で、価格は後」ということだ。
多くの人は、まず“価格”を決めてから“価値”を語ろうとする。
だがホルモジは、その順番を根本からひっくり返す。
「価格は価値の結果であり、需要は信頼の結果である。」
この正順に戻すだけで、
オファー設計のすべてがシンプルになる。
価値 → 価格 → 需要 の順に設計する
価値(Value)を設計する
- 顧客の「夢・確率・時間・負担」を分析し、
どうすれば“買わずにいられない構造”を作れるかを設計する。価格(Price)を意味づける
- 「なぜこの価格なのか?」を説明できるストーリーを持つ。
価格とは、価値を数字で翻訳したものにすぎない。需要(Demand)を育てる
- 価値と価格が整えば、自然と需要は生まれる。
広告やキャンペーンは“最後のスパイス”でしかない。
ホルモジの本書は、こうした逆算の思考を公式化したマーケティング理論だ。
「価値方程式」をチェックリスト化する習慣を
本書を一度読んで終わりにせず、
“思考のテンプレート”として使うのがホルモジ流の真価だ。
提案や企画を考えるたびに、この4項目を確認する。
| チェック項目 | 自問の問い |
|---|---|
| 夢の結果 | 相手が本当に手に入れたい未来を描けているか? |
| 達成の確率 | 「本当に叶う」と思わせる根拠を示せているか? |
| 時間の遅れ | どれだけ早く成果を届けられるか? |
| 努力と犠牲 | 相手の負担や不安をどれだけ取り除けているか? |
このチェックリストを毎回回すことで、
あなたのオファーは少しずつ“磨かれていく”。
ホルモジ自身も言う。
“Great offers aren’t created. They’re iterated.”
(偉大なオファーは、最初から生まれるのではない。磨き続けられるものだ。)
“売らずに売れる”を文化にする
ホルモジの理論は単なるセールススキルではない。
それは、顧客理解と信頼構築を文化として根づかせるための思想だ。
価格競争でも、広告費でもなく、
“価値設計”で戦う人が増えれば、
マーケティングという言葉の意味そのものが変わっていく。
売ることは、奪うことではない。
相手の未来を一緒にデザインすることだ。
“Make your offer so good, they feel stupid saying no.”
(断る方がバカらしくなるほどのオファーをつくれ。)
— Alex Hormozi, $100M Offers
この一冊は、英語でしか読めない今こそ、
あなたの「価値を設計する力」を磨く最高の教科書になるだろう。
引用・参考
出版データ(出版日/ISBN/ページ)
Amazon / Porchlight Book Company公式ストア:章構成、価値方程式・強化レイヤー(希少性/緊急性/ボーナス/保証/ネーミング)説明
Acquisition.com価値方程式の要素解説(外部)
Creator Economy“値引きよりボーナス”の主張(レビューまとめ)
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