未邦訳の書棚

ホルモジの価値方程式:夢×確率/時間×負担で“売らずに売れる”を設計する【前編】

なぜ“オファー”がすべてを決めるのか

価格を下げても、広告を増やしても、なぜか売れない。
そんな経験をしたことがある人は多いはずです。

けれど――もしその原因が「商品そのもの」ではなく、
“オファー(提供の仕方)”にあるとしたら?

アメリカの起業家・投資家 Alex Hormozi(アレックス・ホルモジ) は、
この問いを突き詰めた人物です。

彼の著書 『$100M Offers: How To Make Offers So Good People Feel Stupid Saying No』
(2021年刊/Acquisition.com)では、
「人が“ノー”と言うのがバカらしくなるほど魅力的なオファー」を
構造的に設計する方法 を解き明かしています。

本書は現時点で 英語版のみ刊行・未邦訳につき、先取り解説。
つまり、日本語ではまだ体系的に紹介されていない「ホルモジ流・オファー設計の本質」を、
ここで紐解いていくことになります。

彼は動画でも同様のテーマを語っていますが、
本書はその断片的なノウハウを超えて、より体系的にまとめ上げた内容です。

ホルモジが提唱する中核の概念が――
「価値方程式(Value Equation)」

価値 = (夢の結果 × 達成の確率) ÷ (時間の遅れ × 努力と犠牲)

このシンプルな式を軸に、
人が「欲しい」と感じる構造を数学的に、そして感情的に解析していきます。

本記事では、このホルモジの“価値方程式”を中心に、
どんなビジネスでも「売らずに売れる」状態を設計するための思考法を紹介します。

価格でも広告でもない。
すべてを動かすのは――“価値の設計”

あなたが提供しているものの「見え方」と「感じ方」を再設計することで、
売上だけでなく、信頼や共感まで生まれる。
そのヒントが、この一冊には詰まっています。

Value Equationで価値を数式化する

価値 =(夢の結果 × 達成の確率) ÷(時間の遅れ × 努力と犠牲)

ホルモジが本書の中心に据えたのは、このシンプルな「価値方程式」だ。
一見するとマーケティングの公式のようだが、実はこれは“人の心理”を数式化したものだ。

彼は言う。

「顧客は“商品”ではなく、“未来”を買っている。」

つまり、人は「それを手に入れた先にどんな未来が待っているか」で判断する。
この公式に登場する4つの変数は、すべてその“未来”の感じ方を左右する要素だ。

① Dream Outcome(夢の結果)——「どうなりたいか」

顧客が本当に望んでいるのは、商品そのものではなく、
それによって「どんな自分になれるか」という未来像だ。

たとえば、営業なら「契約件数の増加」ではなく、
“自信を持って提案できる自分になること” が本当の夢の結果かもしれない。

ブログ運営なら、「PVを増やす」よりも、
“自分の言葉で人を動かせるようになること” が本質だ。

ホルモジはこの「Dream Outcome」を明確に描くことこそ、
価値設計の第一歩だと説く。

② Perceived Likelihood of Achievement(達成の確率)——「本当に叶うと思えるか」

どんなに魅力的な未来を描いても、
「本当に叶うのか?」と疑われた瞬間、価値は消える。

だから、営業であれば「再現性の証拠」――過去の成功事例やデータを示す。
企画なら「小さな成功を積み上げるロードマップ」。
SNS発信なら「自分が実際にやってみたプロセスの可視化」。

これらはすべて、達成確率を“感情的に高める”ための仕掛けだ。

ホルモジの言葉を借りれば、

「人は“可能だ”と思えた瞬間に、買う準備が整う。」

③ Time Delay(時間の遅れ)——「どれくらいで手に入るか」

夢が遠いほど、人は行動を先延ばしにする。
だからこそ、“今すぐ変化が実感できる体験”を用意することが重要だ。

営業なら、導入初日から使える「即日活用マニュアル」。
SNSなら、投稿1本目から反応がもらえる「導入テンプレ」。

「時間を短縮する工夫」が、そのまま価値の増幅装置になる。

④ Effort & Sacrifice(努力と犠牲)——「どれだけ大変か」

最後の要素は、「どれほど苦労する必要があるか」。
人は同じ結果が得られるなら、“ラクな方”を選ぶ。

ホルモジはここを“摩擦コスト”と呼び、
いかにそれを取り除くかに執念を燃やしている。

たとえば:

  • 手続きが複雑なら → ワンクリック導入にする

  • 読むのが面倒なら → 音声や図解で代替する

  • 学ぶ時間がないなら → 自動化や代行の仕組みを入れる

価値を高めるとは、「夢を大きく」「確率を高く」「時間を短く」「負担を軽く」――
この4つを同時にデザインすることに他ならない。

公式を“自分の仕事”に当てはめてみる

この式は、業種を問わず使える。
営業でも、企画でも、SNS運用でも、ブログでも。

あなたの提供する価値を、この4項目に分解してみよう。

要素自分の文脈に置き換える問い
夢の結果相手は何を手に入れたいのか?「理想の状態」は?
達成の確率それを「本当に叶えられそう」と思わせる根拠は?
時間の遅れどれくらいの期間で成果を実感できるか?
努力と犠牲どんな障害や手間を減らせるか?

この4つのバランスを最適化することで、
あなたのオファー(提案)は、“売らずに売れる”状態に近づいていく。

ホルモジはこれを「感情と論理の両輪で設計するマーケティング」と呼ぶ。

言葉はシンプルだが、
「人が欲しいと感じる理由」をここまで論理的に解明した公式は他にない。

“人は買わないのではない。買いたい理由が足りないだけだ。”
— Alex Hormozi

Grand Slam Offerの設計プロセス

「いい商品なのに、なぜか響かない」
「提案しても、検討しますで終わる」

それは、商品やスキルそのものの問題ではない。
多くの場合、“オファー(提案の構造)”が弱いだけだ。

ホルモジは言う。

“A great offer isn’t about what you sell, it’s how you sell it.”
(偉大なオファーとは、何を売るかではなく、どう売るかで決まる)

彼が本書で提唱するのが「Grand Slam Offer」――
“顧客が断る理由をすべて潰した上で、選ばざるを得ない提案”を作る技法だ。

この構築プロセスは大きく5ステップに整理されている。
ここでは、営業・企画・SNS発信などどんな領域にも当てはまる形で要約していこう。

STEP 1|市場を選ぶ ―「誰にとっての“理想”か?」

最初の設計要素は「誰の夢を叶えるのか」。
ここを誤ると、どれだけ良い商品でも“刺さらない”。

  • 営業なら:誰にとって“今の課題を一番強く感じている人”か?

  • 企画なら:どんな層が“現状に我慢している”のか?

  • SNSやブログなら:“どんな悩みを抱えたフォロワーが共鳴するか?”

ホルモジは「市場を絞る勇気」を強調する。
彼にとってニッチとは、“少人数でも強烈に欲しがる層”のことだ。

STEP 2|価格を設計する ―「価格は心理設計の一部」

多くの人が価格を「最後に決めるもの」と考えるが、
ホルモジにとってそれは“オファーの一部”であり、価値の演出ツールだ。

  • 高価格なら「確実な成果」を裏付ける証拠が必要。

  • 低価格なら「リスクがほぼゼロ」であることを保証する。

価格そのものではなく、
なぜこの価格なのか」を明確に語れるかが信頼を決める。

“Price is only expensive when the value is unclear.”
(価値が不明確なときだけ、価格は高く感じられる)

STEP 3|価値を積み上げる ―「Value Equation を最大化する」

ここで登場するのが、前章の「価値方程式」だ。
ホルモジはこの4変数を調整し、オファーの“体感価値”を劇的に引き上げる。

要素高める方法
夢の結果より明確なゴールを描く。「Before→After」の変化を見せる。
達成確率成功事例・証拠・サンプルを提示する。
時間の遅れ即効性のあるステップや導入支援を提供。
努力と犠牲自動化・代行・サポートで摩擦を減らす。

ホルモジは、この4要素を繰り返し“仮説検証”することで、
同じ商品でも「感じる価値」を何倍にも高められると説く。

STEP 4|強化レイヤー ―「断る理由をすべて潰す」

ここがホルモジの真骨頂。
価値を高めた上で、さらに心理的なバリアを削ぎ落とす仕組みを積層させる。

① 希少性(Scarcity)

「限定10名」「残り3日」などは単なる煽りではなく、
“決断のきっかけ”を与えるための心理設計。
ただし、真実であることが大前提

② 緊急性(Urgency)

「今決める理由」をつくる。
ホルモジは“毎日使える緊急性設計”という概念を提唱し、
「日常の区切り」――週末・締切・季節・ニュースなどを利用して行動を促す。

③ ボーナス(Bonuses)

値引きよりも、障害を取り除く“加算型の価値”を提案する。

例:チェックリスト、テンプレート、無料サポート、導入ガイドなど。
「これさえあればできそう」と思える要素を重ねる。

④ 保証(Guarantees)

人が最も恐れるのは「失敗するリスク」。
それを“保証”という形で引き取る。
たとえば返金保証、成果保証、再トライ保証など。

“You don’t need to reduce price — you need to reduce risk.”
(値引きする必要はない。リスクを減らせばいい。)

⑤ ネーミング(Naming)

最後の仕上げは“印象設計”。
覚えやすく、感情に触れる名前は、それ自体が販売装置になる。
ホルモジは「人は覚えやすいものを“信頼できる”と感じる」と指摘する。

STEP 5|検証と反復 ―「市場と対話しながら磨く」

完成形は最初から存在しない。
ホルモジ自身も「オファーは仮説であり、テストが命」と語る。

  • どのボーナスが最も響くか?

  • どんな保証が信頼を生むか?

  • 価格帯は最適か?

市場の反応を“対話”として受け取り、改善を繰り返す。
このプロセスを回せる人が、長期的に「売らずに売れる」仕組みを構築していく。

Grand Slam Offerの本質とは

「買わせる」ではなく、「買わずにいられない」状態をつくる。
それがホルモジの到達点だ。

“Make your offer so good they feel stupid saying no.”
(あまりにも良すぎて、“ノー”と言う方がバカらしくなるほどのオファーをつくれ)

ここで言う“良すぎる”とは、
相手の夢と恐れ、期待と不安を構造的に理解して設計することだ。

つまり、「セールス」ではなく「デザイン」
オファーとは、心理と構造のデザインである。

“価値を設計する”という視点を持つ

ホルモジの本質は、派手なセールステクニックではなく、
「価値とは何か」を冷静に再定義する姿勢にある。

人は「欲しいもの」を買っているのではなく、
その奥にある“望む未来”を買っている。

だからこそ、彼の公式はビジネスだけでなく、
営業にも、企画にも、SNSにも通じる普遍的な原理になる。

価値 =(夢 × 確率)/(時間 × 負担)

この方程式を意識しながら提案を組み立てると、
自分が何を“足すべきか”よりも、
何を“削ぎ落とすべきか”が見えてくる。

それは、派手なプロモーションではなく、
「相手が買わずにいられない理由」を丁寧に積み上げる作業だ。

ホルモジの考え方は、
“売る力”ではなく“設計する力”を磨くための思想書だ。
数字や公式に見えて、その本質は“人間の行動心理”を読み解く哲学書でもある。

そして彼が教えてくれるのは、
「オファーとは、相手の痛みを消す“設計”である」ということ。

後編では、その“設計”を現実に落とし込むフェーズ――
実際にどのように「値引きではなくボーナスで障害を外し」、
「保証の積層で買わない理由を消す」のかを解説していく。

さらに、日本ローカルのケーススタディを通して、
この“売らずに売れる”オファー設計を自分の現場へどう応用できるかを見ていこう。

  • この記事を書いた人

まっきー

「マキログ」は、身体を鍛え、心を整え、思考を磨く——そんな“日々の実験”を記録するブログです。 本の要約や海外インフルエンサーの翻訳を通して、内側から人生を整えていく感覚を綴っています。

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